地域防災マネージャーについて

実技試験あり実務経験・学歴が必要
公的資格

地域防災マネージャーとは?

内閣府が証明書を交付する防災行政の専門人材認定制度

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地域防災マネージャーの概要

地域防災マネージャーとは、内閣府(防災担当)が証明書を交付することで認定される防災行政の専門人材です。一般的な資格制度とは異なり、試験も合格判定もありません。「すでに防災のプロである」という実績と要件を内閣府が公的に証明する、という逆転の発想で設計された制度です。

地域防災マネージャーとは、地方公共団体が防災対策を強化するために採用する防災行政の専門家のことです。内閣府が証明書を交付し、採用した自治体には特別交付税措置が与えられます。

証明書取得のルートは2つある

証明書を取得するルートは大きく2つに分かれます。ルートAは防衛省ルートで、現役の幹部自衛官を対象とした「防災・危機管理教育」(約3週間)を修了した後、退職した際に証明書を申請できます。ルートBは内閣府ルートで、有明の丘研修センターで行われる「防災スペシャリスト養成研修」の9コースをすべて修了し、かつ防災行政実務の経験を5年以上有していることが条件です。

有明の丘研修センター(内閣府防災)とは、東京・有明に設置された内閣府の防災研修施設で、全国の防災担当者や地方公務員を対象に専門的な研修を実施しています。

地方公共団体が採用する制度設計

証明書を持つ専門家は、自らが地方公共団体に採用される形で配置されます。採用主体はあくまで市区町村や都道府県であり、内閣府は証明書の交付と財政支援を担う役割です。令和6年6月末時点の証明書保有者数は2,589名に達しており、そのうち大多数が防衛省ルートを経た退職自衛官(幹部)です。

業務内容:防災行政の「参謀」として機能する

地域防災マネージャーの主な業務は、地域防災計画の策定・改訂への専門的関与、防災訓練の企画・立案・実施、首長や防災担当部局への助言、自衛隊との連携強化・調整、大規模災害時の広域応援調整など、多岐にわたります。その自治体の「防災参謀」として、ハードとソフト両面から地域を支える役割を担います。

難易度・取得要件の目安

★★★★☆試験はないが、取得ルートが幹部自衛官や防災行政実務5年以上など、前提ハードルがきわめて高い

「試験がない=取りやすい」ではありません。防衛省ルートでは幹部自衛官として現役のうちに専門研修を修了しておく必要があり、内閣府ルートでは防災行政の実務を5年以上積んだうえで9コースの研修をすべて修了しなければなりません。どちらも、一般市民が「これから目指す」という種類の制度ではなく、すでにキャリアを積んだ防災のプロが経歴に証明書を加える制度として機能しています。

防衛省ルートで証明書取得資格を得る人数は毎年約350名とされていますが、実際に地方公共団体に採用されるのはそのうち約3分の1程度です。証明書を持っていても採用先が見つかるとは限らない、というのが現実の姿です。

合格率の概念はなし:試験がないため合格率という指標は存在しません。証明書は内閣府が要件充足を確認したうえで交付する公的証明であり、「受かる・落ちる」という仕組みではありません。

取得後に活かせる仕事・関連する職種

地方公共団体の防災専門職員・アドバイザー

最もメインとなる活躍の場が、市区町村や都道府県が設ける防災専門職員・防災アドバイザーのポジションです。地域防災計画の策定・改訂、防災訓練の設計、ハザードマップの見直しなど、防災行政のあらゆる局面で専門的な知見を提供します。首長への直接助言も行い、自治体の防災政策を一段引き上げる「外部プロ」として機能します。

自衛隊との連絡調整担当

退職自衛官がこの制度のルートAを経て採用される場合、自衛隊との連絡・調整を担う場面が特に多くなります。大規模災害時に自衛隊が派遣される際の受け入れ調整、合同訓練の企画、連絡体制の整備など、防衛省のOBネットワークを活かした役割を担います。自衛隊との橋渡し役は一般の防災担当職員には難しく、この制度の存在価値の核心でもあります。

大規模災害時の広域応援コーディネーター

南海トラフ地震や首都直下地震のような大規模広域災害が発生した際、複数の自治体・機関が連携して動く「広域応援」の調整は、防災行政の最も難しい局面の一つです。地域防災マネージャーはこうした広域対応の経験と知識を持っているため、発災時には中心的なコーディネーター役に就くことが期待されています。平時からの関係構築と情報共有が、有事の即応力につながります。

防災関連のコンサルタント・研修講師

証明書取得後のキャリアとして、民間の防災コンサルティング企業や研修機関での活躍も考えられます。企業のBCP(事業継続計画)策定支援、防災研修の講師、自治体向けコンサルティングなど、防災の専門知識を民間市場で活用するニーズは年々高まっています。

BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、大規模な災害や事故が起きた場合でも企業が事業を継続・早期復旧できるよう、あらかじめ手順を定めた計画のことです。

誕生の背景・歴史

平成24年:東日本大震災の教訓から生まれた提言

2011年の東日本大震災は、日本の防災行政の「弱点」を白日の下にさらしました。被害の大きかった多くの自治体では、防災担当者の経験・知識が十分ではなく、初動対応や広域調整で混乱が生じたことが記録されています。この教訓を踏まえ、中央防災会議は平成24年(2012年)に策定した「防災基本計画」の中で、「防災行政を担う専門人材の育成・活用」を提言しました。

平成27年度:制度創設と104団体からのスタート

提言から3年後の平成27年度(2015年度)、「地域防災マネージャー」制度が正式に創設されました。同時に、採用した地方公共団体への特別交付税措置も導入され、財政面からも採用を後押しする仕組みが整えられました。制度スタート時は104団体が参加するという滑り出しでしたが、これが後に大きく拡大していくことになります。

令和3年度:322団体・約9億8千万円の措置額へ拡大

創設から6年後の令和3年度には、採用団体数は322団体に達し、制度開始時の3倍超にまで拡大しました。措置額も約9億8千万円にのぼり、地方の防災力強化に向けた国の本気度が数字として表れています。南海トラフ地震や首都直下地震への備えが社会的に注目を集めるなか、専門家人材の需要が自治体の側でも高まったことが大きな要因です。

特別交付税措置とは、国が地方公共団体に交付する地方交付税のうち、特定の政策目的に応じて交付する仕組みのことです。地域防災マネージャーの場合、人件費の0.5(半額)・上限年340万円・1団体1人が措置の対象となります。

どんな人が、どんな目的で取得しているのか

退職自衛官(幹部):証明書保有者の大多数

証明書保有者2,589名の大多数を占めるのが、防衛省ルートを経た退職幹部自衛官です。現役時代に「防災・危機管理教育」を修了しておき、定年退職後に地方公共団体の防災専門職員として「第二のキャリア」を築く、というのが典型的なルートです。自衛隊時代の専門知識と組織運営の経験を地域貢献に活かせる点が、本人・採用自治体双方にとって大きなメリットになっています。

地方公務員の防災担当者(内閣府ルート)

内閣府ルートは、都道府県や市区町村の防災担当部局で長年実務に携わってきた地方公務員が対象です。防災行政実務5年以上という要件を満たしながら、有明の丘研修センターの9コースを段階的に修了していくため、証明書取得までに数年単位の時間を要します。取得後は庁内での地位向上だけでなく、他の自治体への転職や専門家としての登壇・発信活動にもつながるケースがあります。

採用側の自治体:人材難への対応策として

この制度の「ユーザー」としての視点を持つのが、採用側の地方公共団体です。多くの市区町村では防災の専門家を内部で育成する余裕がなく、万一の際に頼れる専門職員が不足している実情があります。そこで特別交付税措置を活用しつつ証明書保有者を採用することで、限られた財源の中で防災力を底上げしようというのが採用側の主な動機です。中山間地域や小規模自治体ほど需要が高い傾向があります。

豆知識:「試験なし」の制度が成立する理由と意外な数字

「スタート地点が既にプロ」という逆転設計の妙

一般的な資格制度は「学習→試験→合格→資格取得」という順序で設計されています。しかし地域防災マネージャーはこの順序が根本から異なります。「すでに何年もかけて防災のプロになった人物を、内閣府が公的に証明する」というのが制度の本質です。試験で測るまでもなく、幹部自衛官として危機管理に従事した実績、あるいは防災行政実務5年以上という経歴そのものが「証明済みの能力」として扱われるわけです。資格の世界では珍しい「後付け公的証明」型の仕組みといえます。

毎年350名が資格を得るが採用されるのは約3分の1

防衛省ルートでは毎年約350名の退職幹部自衛官が証明書取得の資格を得ます。しかし実際に地方公共団体に採用されるのはそのうち約3分の1、つまり年間100名前後にとどまります。残り約230名は証明書を持ちながらも地域防災マネージャーとして配置されていないことになります。採用枠が自治体ごとに1名限定・特別交付税措置も上限340万円と限られていることが、この「未活用の専門人材」を生み出す一因です。

104団体から322団体へ:7年間で3倍超に拡大した背景

制度スタート時の平成27年度には104団体が参加していたのが、令和3年度には322団体へと3倍超に増えました。この拡大には、令和元年(2019年)の台風19号や令和2年7月豪雨など、近年の大規模災害が相次いだことが大きく影響しています。「他人事」だった大規模災害が現実の問題として意識されるたびに、専門人材の採用に踏み切る自治体が増えるという構図が続いています。南海トラフ地震・首都直下地震への警戒が高まる中、この数字はさらに増え続けると見られています。

制度を設計した「逆算の財政措置」

地域防災マネージャーを採用しやすくするために設けられた特別交付税措置は、人件費の0.5(半額)・上限年340万円・1団体1人という内容です。つまり年収680万円の専門職員を採用しても、国が実質的に半額を負担するという計算になります。「採用したくても財源がない」という自治体の事情を見越して国が補填する仕組みを作ったことで、制度の普及が加速しました。財政措置とセットで普及を図るこのアプローチは、防災人材政策の一つのモデルケースとして注目されています。

まとめ ― 「プロが証明される」制度で地域防災を強化する

こんな方にとくにおすすめ

  • 防衛省ルートの研修(防災・危機管理教育)を修了済みの幹部自衛官で、退職後に地域貢献を考えている方
  • 内閣府の防災スペシャリスト養成研修を段階的に受講し、防災行政の専門家としてキャリアを積みたい地方公務員の方
  • 退職後も防災・危機管理の専門知識を活かして社会に貢献したいと考えている方
  • 自治体の防災力強化に取り組む立場から、制度の活用を検討している防災担当職員の方

取得に向けた第一歩

地域防災マネージャーの制度詳細は、内閣府防災情報のウェブサイトで公開されています。防衛省ルートを検討している方は所属部隊・機関を通じて「防災・危機管理教育」の受講機会を確認し、内閣府ルートを検討している方は有明の丘研修センターのコース日程を参照するところから始めるとよいでしょう。関連資格として、防災士危機管理士気象予報士防火管理者・防災管理者なども合わせて学ぶことで、防災分野のキャリアをより厚みのあるものにできます。

制度の普及とともに、証明書保有者への採用ニーズは今後も高まっていくと見られます。南海トラフ地震・首都直下地震への備えが社会的な課題として位置づけられている現在、防災の専門家として地域に貢献できるこの制度のポテンシャルはまだ十分に活かしきれていないともいえます。

公式サイト:地域防災マネージャー | 内閣府防災情報