石綿使用建築物等解体等業務特別教育とは?
労働安全衛生法に基づく国家制度(特別教育)をわかりやすく解説
石綿使用建築物等解体等業務特別教育の概要
石綿使用建築物等解体等業務特別教育は、労働安全衛生法第59条第3項・労働安全衛生規則第36条第37号・石綿障害予防規則第27条第1項・平成17年3月31日厚生労働省告示第132号(石綿使用建築物等解体等業務特別教育規程)に基づき、石綿(アスベスト)が使用されている建築物・工作物・船舶の解体・改修作業、および損傷・劣化等により石綿粉じんが発散するおそれのある建築物での作業に従事する者に対して事業者が実施義務を負う「特別教育」です。学科4時間30分(5科目・法令上実技の規定なし)の講習で修了証が取得できます。修了考査(試験)はなく、全科目受講完了で修了証が交付されます。受講資格は18歳以上です。2003年の石綿原則禁止以前に建設された建物の老朽化・解体が増加する中、解体工事・リフォーム業界で需要が急増している特別教育です。
※ 本特別教育と「石綿作業主任者技能講習」は別の資格:本特別教育は石綿含有建材の解体・改修作業に「従事する」すべての作業員(手を動かすすべての人)が対象です。一方、「石綿作業主任者技能講習」は作業現場ごとに1名以上の選任が義務付けられる監督者向けの技能講習(修了考査あり・約11時間)です。「石綿作業主任者技能講習」修了者は本特別教育の受講が免除されます。また2023年10月1日以降、建築物の解体・改修工事では事前に「建築物石綿含有建材調査者」(一般・一戸建て等・特定)による石綿含有建材の事前調査が義務付けられており、本特別教育はその後の実作業段階で必要な教育です。
対象業務と受講が必要な人
石綿障害予防規則第27条が定める対象業務は①石綿等が使用されている建築物・工作物・船舶の解体・破砕・撤去・改修作業②石綿等の封じ込め(コーティング剤での固定化)・囲い込み(ボードで覆う)作業③損傷・劣化等により石綿粉じんが発散するおそれのある建築物・工作物等における作業です。建設会社・解体工事業者・内装工事業者・外壁補修業者・設備工事業者で石綿含有建材に触れる可能性がある作業員全員が対象で、18歳以上であれば学歴・経験は問いません。他の事業場で既に本特別教育を受講済みの方は再受講が免除されます。
基本情報の早見表
| 取得方法 | 特別教育(学科4時間30分・法令上実技の規定なし・半日〜1日)の全科目受講完了 |
|---|---|
| 講習科目(学科4.5時間) | ①石綿の有害性(0.5時間)②石綿等の使用状況(1時間)③石綿等の粉じんの発散を抑制するための措置(1時間)④保護具の使用方法(1時間)⑤その他石綿等のばく露の防止に関し必要な事項(1時間) |
| 修了条件 | 試験(修了考査)なし。全科目受講完了で修了証交付 |
| 受講資格 | 18歳以上(石綿取扱い業務は18歳未満禁止の危険業務のため)。学歴・実務経験不要 |
| 受講料 | 約7,000〜12,000円(機関・地域により差あり) |
| 有効期限 | なし(終身有効・更新義務なし) |
| 実施主体 | 一般財団法人中小建設業特別教育協会・建設業労働災害防止協会(建災防)・各都道府県の労働基準協会等 |
| 公式根拠 | 安衛法第59条第3項・安衛則第36条第37号・石綿則第27条・平成17年告示第132号 |
講習内容を詳しく
学科4時間30分の科目詳細(法令上実技の規定なし)
法令上の規定は学科のみ4時間30分ですが、一部の実施機関が任意で保護具(電動ファン付き呼吸用保護具・防護服)の着脱実習等の実技(1〜1.5時間程度)を追加し、合計6時間で実施するコースもあります。5科目の中で最も重要なのは「石綿等の粉じんの発散を抑制するための措置(1時間)」と「保護具の使用方法(1時間)」で、石綿粉じんへのばく露を実際にゼロに近づけるための実践的知識を習得します。
- 石綿の有害性(学科・0.5時間):石綿(アスベスト)の定義(繊維状ケイ酸塩鉱物の総称)・種類(クリソタイル・アモサイト・クロシドライト・アンソフィライト・トレモライト・アクチノライトの6種)・使用禁止の経緯(2006年全面禁止)・吸入による健康被害のメカニズム(肺胞への沈着→細胞傷害→発がん)・石綿関連疾患の種類(中皮腫・肺がん・石綿肺・良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚)・潜伏期間(曝露から発症まで15〜50年)・発症リスクと曝露量の関係
- 石綿等の使用状況(学科・1時間):石綿が使用されていた主な建材の種類(吹付け石綿・石綿含有保温材・石綿含有断熱材・石綿スレート・石綿含有ビニル床タイル・石綿含有ケイカル板・石綿含有シール材等)・使用されていた時期(主に1960〜1990年代)・建設年代・用途別の使用実態・目視による石綿含有建材の推定方法・事前調査(建築物石綿含有建材調査)の重要性と調査者による書面確認の意義・建材ごとの石綿含有率と取扱い注意事項
- 石綿等の粉じんの発散を抑制するための措置(学科・1時間):作業箇所の養生(プラスチックシートによる隔離・陰圧管理)・湿潤化(散水)による粉じん発散抑制・除じん性能を有する電動工具の使用(令和6年4月1日施行改正で湿潤化と同等措置として認定)・ビニール袋の二重梱包・石綿廃棄物の適正処理・作業中の立入禁止措置・ウォークスルー(作業前点検)の実施・高濃度作業(吹付け石綿除去)での格納型除去工法の概要
- 保護具の使用方法(学科・1時間):石綿作業で必要な呼吸用保護具の種類(電動ファン付き呼吸用保護具PAPR・DS3規格以上の防じんマスク)と選択基準・防護服(タイベック等の使い捨て防護服)の種類と着脱手順・保護眼鏡の必要性・保護具の着用前後の手順(特に「脱ぐ時」の汚染防止順序)・フィットテストの実施・保護具の廃棄(石綿廃棄物として適正処理)
- その他石綿等のばく露の防止に関し必要な事項(学科・1時間):石綿作業計画の作成義務・事前調査結果の記録と保存(40年間)・作業計画書への記載事項・石綿作業主任者の選任と職務・作業場の標識・掲示義務・石綿取扱い作業者への健康診断(雇入れ時・定期・離職時)の実施義務・石綿健康管理手帳制度(離職後も健康診断が無料受診可能)
修了の条件(試験なし・全科目受講完了)
石綿使用建築物等解体等業務特別教育には法令上の修了考査(試験)がありません。学科4時間30分を全科目受講完了した時点で修了証が交付されます。半日〜1日で取得でき、eラーニング(オンライン)での学科受講も広く対応しています。受講記録は安衛則第38条に基づき3年間保存が義務です。石綿作業主任者技能講習修了者・他の事業場での受講済み者は受講が免除されます。
難易度・受講のポイント
石綿使用建築物等解体等業務特別教育は半日で取得できる特別教育ですが、中皮腫・肺がんという重篤な職業病を防ぐための核心知識が詰まっています。特に①石綿含有建材の見分け方(使用年代・建材種類による推定)②保護具の脱ぎ方の順序(防護服を脱ぐ際に表面の石綿繊維を口元に近づけないようにする手順)③廃棄物の二重梱包・適正処分の3点は実務での誤りが重大な健康被害につながる最重要事項です。潜伏期間が長い(15〜50年)ため、若年時の曝露防止が特に重要です。
キャリアパスと需要
解体工事・リフォーム・設備工事の現場で急増する需要
解体工事会社・建設会社(改修・リノベーション)・内装仕上げ工事業者・外壁補修業者・設備工事業者(空調・配管・電気)・産業廃棄物処理業者が主な就業先です。日本の建物ストックの多くが1960〜1980年代に建設されたものであり、これらの建物の老朽化・建替え需要が増加する2020〜2040年代にかけて解体・改修工事が急増しています。また2023年10月以降の石綿事前調査義務化と2024年の電動工具規制改正により、石綿対策の重要性が一段と高まっており、本特別教育修了者の需要は今後さらに増加する見込みです。
石綿作業主任者・建築物石綿含有建材調査者との組み合わせ
本特別教育を取得後に「石綿作業主任者技能講習」(修了考査あり・約11時間)を取得すると、作業現場での監督者(作業主任者)としてキャリアアップできます。さらに「建築物石綿含有建材調査者(一般)」(筆記試験あり・2023年10月以降に義務化された事前調査を実施できる資格)を取得すると、解体・改修工事の調査から現場作業まで一気通貫で対応できる石綿対策スペシャリストとして高く評価されます。「工作物石綿事前調査者」(建築物以外の構造物に対応)との組み合わせで橋梁・プラント等の工作物解体にも対応可能です。
豆知識:石綿の危険性
中皮腫──石綿曝露から15〜50年後に発症する特殊ながん
中皮腫は肺・腹部・心臓を覆う胸膜・腹膜・心膜の中皮細胞ががん化する悪性腫瘍です。石綿繊維の吸入が主な原因とされており、石綿建材が多用された1960〜1970年代に従事した建設労働者での発症が現在も増加しています。潜伏期間が極めて長く(平均30〜50年)、石綿ばく露から何十年もたってから発症するため、若い時代の「少量の曝露」が中高年以降の発症につながることがあります。中皮腫の5年生存率は依然低く、早期発見も困難な深刻な疾患です。本特別教育が定める保護具の正しい使用と粉じん発散抑制措置は、この深刻な職業病を防ぐ直接的な手段です。
吹付け石綿・保温材・スレートに含まれる石綿の違い
石綿含有建材は含有率・飛散しやすさ(発じん性)によってレベル1〜3に分類されます。レベル1(最も危険)は吹付け石綿(天井・壁への吹き付け断熱材)・石綿含有吹付けロックウール(断熱・吸音目的)で、繊維が簡単に空気中に舞い上がり最も厳格な除去管理が必要です。レベル2は石綿含有保温材(配管・ボイラー保温)・断熱材(防火区画貫通部充填材)・耐火被覆材で、破損・劣化で繊維が飛散します。レベル3は石綿含有成形板(スレート屋根材・石綿セメント板・ビニル床タイル等)で、切断・研磨・穿孔等の加工をしない限り飛散しにくいですが、電動工具で切断すると大量の石綿粉じんが発生します。本特別教育でこれらの識別方法と対応する防護措置を学びます。
令和6年4月改正──除じん性能電動工具の使用が湿潤化と同等措置に
令和5年8月29日公布・令和6年4月1日施行の石綿障害予防規則改正により、石綿等の切断等作業における粉じん発散防止措置として「除じん性能を有する電動工具の使用」が新たに「湿潤化」と同等の措置として法令上認められました。これまでは湿潤化(散水)が実質的な唯一の方法でしたが、散水が困難な電気設備周辺や高所での作業等でも、集じん機能付き電動工具(吸じんサンダー・集じん丸のこ等)を使用することで粉じん発散を抑制できるようになりました。本特別教育の「粉じんの発散を抑制するための措置」科目でこの改正内容を含む最新の手順を習得することが重要です。
よくある質問
Q. 石綿が使用されているかどうかわからない建物を解体する場合も受講が必要ですか?
はい、必要です。石綿障害予防規則では、解体・改修工事の前に発注者が石綿含有建材の事前調査を実施し、その結果を元請業者・作業者に知らせることが義務付けられています。しかし調査で「石綿なし」と判定された建物でも、調査漏れや潜在的な石綿含有建材が存在するリスクをゼロにはできません。また2023年10月1日以降、石綿含有の有無にかかわらず解体・改修工事に従事するすべての作業員は本特別教育を受講していることが強く推奨されます(石綿があるかどうかを現場判断するためにも石綿の知識が必要)。元請け会社が受講証明の提示を現場入場条件とするケースも増えています。
Q. 石綿作業主任者技能講習を受けた場合、本特別教育は免除されますか?
はい、免除されます。石綿作業主任者技能講習(約11時間・修了考査あり)を修了した者は、本特別教育の受講が法令上免除されます(石綿則第27条第2項)。石綿作業主任者は本特別教育よりも内容が深く・長い上位の教育訓練であるためです。また他の事業場で既に同内容の石綿使用建築物等解体等業務特別教育を受講済みの者も、実施機関が受講記録を確認できれば免除される場合があります。ただし「石綿含有建材調査者」「建築物環境衛生管理技術者」等は免除の根拠にはなりません。免除を主張する場合は修了証の原本・写しの提示が必要です。
こんな方におすすめ
- 解体工事会社・建設会社・内装工事会社・外壁補修会社等に就職・転職する予定であり、石綿含有建材を扱う現場作業前に本特別教育の修了証を準備したい18歳以上の方(試験なし・学科のみ半日〜1日で取得可)
- リフォーム・リノベーション業者や設備(空調・配管・電気)工事業者として既に働いているが、元請けから石綿特別教育修了証の提示を求められている方
- 将来的に「石綿作業主任者技能講習」や「建築物石綿含有建材調査者」の取得を目指しており、本特別教育を石綿対策キャリアの第一歩として位置付けたい方
- 事業者として石綿含有建材を扱う作業に従事させる従業員への本特別教育の実施義務を確認・対応したい管理者・安全担当者の方
最新の講習日程・受講料・申込方法の詳細は中小建設業特別教育協会または建設業労働災害防止協会(建災防)にお問い合わせください。eラーニング(オンライン)での受講も全国対応しています。
