酸素欠乏危険作業主任者とは?
労働安全衛生法に基づく国家資格(技能講習)をわかりやすく解説
酸素欠乏危険作業主任者の概要
酸素欠乏危険作業主任者は、労働安全衛生法第14条・施行令第6条第21号・酸素欠乏症等防止規則第27条に基づき、酸素欠乏の危険がある場所(マンホール・地下ピット・鉄製タンク・船倉・穀物サイロ・果実貯蔵庫等)での作業を行う事業場に選任が義務付けられる国家資格(技能講習修了証)です。建設業労働災害防止協会(建災防)・都道府県労働基準協会等の登録機関が実施する2日間の技能講習(学科+実技)を修了し、修了考査に合格することで取得できます。学歴・実務経験の制限はなく、18歳以上であれば誰でも受講できます。
※ 「第1種(本資格)」と「第2種(酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者)」の違い:本ページで解説する「酸素欠乏危険作業主任者」は第1種にあたり、酸素欠乏症リスクのみがある場所(マンホール・鉄製タンク・果実貯蔵庫等)の作業主任者として選任できます。下水道・汚水槽・汚泥槽等の硫化水素中毒リスクも伴う場所には「酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者(第2種)」の選任が義務付けられます。第2種の修了者は第1種の場所にも対応できます。
選任が必要な作業と作業主任者の職務
酸素欠乏危険場所(施行令別表第6に規定)での作業に作業主任者の選任が義務付けられます(酸欠則第27条)。代表的な酸素欠乏危険場所はマンホール・暗渠・地下ピット・鉄製タンク・船倉・穀物サイロ・果実貯蔵庫・きのこ栽培室・トンネル坑内等です。作業主任者の職務は作業方法の決定・指揮・入坑前の酸素濃度測定・換気の実施・呼吸用保護具の使用状況の監視・酸素欠乏症発生時の応急救護体制の確保です。
基本情報の早見表
| 取得方法 | 技能講習(2日間・学科+実技)+修了考査(学科・実技)合格 |
|---|---|
| 講習科目 | ①酸素欠乏症の知識②酸素欠乏等の発生原因・防止措置③測定方法④呼吸用保護具の使用方法⑤救急蘇生の方法(実技)⑥関係法令 |
| 合格基準 | 各科目40点以上かつ総合60点以上 |
| 受講資格 | 18歳以上(学歴・実務経験等の制限なし・誰でも受講可) |
| 受講料 | 約12,000〜15,000円(地域・機関により差あり) |
| 有効期限 | なし(終身有効・更新不要) |
| 選任対象 | 酸素欠乏危険場所(マンホール・地下ピット・鉄製タンク・船倉・サイロ・果実貯蔵庫等)での作業 |
| 主催 | 都道府県の労働基準協会・建設業労働災害防止協会(建災防)・中央労働災害防止協会(中災防)等 |
講習内容を詳しく
2日間の科目詳細(学科+実技)
技能講習は2日間のカリキュラムで、学科(酸素欠乏症の知識・発生原因・防止措置・法令)と実技(酸素濃度測定・心肺蘇生)で構成されます。実技が含まれるのは他の作業主任者技能講習にはない特徴で、実際に酸素濃度計を操作する測定実習と心肺蘇生(AED・人工呼吸)の実習があります。
- 酸素欠乏症の知識:酸素欠乏とは(酸素濃度18%未満の状態)・酸素濃度と症状の関係(16%:頭痛・めまい、12%:意識消失、6%:瞬時に死亡)・酸素欠乏症の症状と昏倒した人の救出リスク(二次災害の危険)・窒素中毒・一酸化炭素中毒との区別
- 酸素欠乏等の発生原因・防止措置:酸素欠乏が発生しやすい場所と原因(鉄製タンクの錆化・穀物果実の呼吸・嫌気性微生物の活動・溶接・不活性ガスの充填)・換気による酸素濃度回復の方法・機械換気(送風機・排風機)の設置基準・作業開始前の換気確認と測定義務
- 測定方法(実技を含む):酸素濃度計の種類(隔膜式・ガルバニ電池式)と特徴・測定箇所の選択(マンホール上部・中部・底部の各層)・測定の頻度と記録・校正(キャリブレーション)の方法・測定者の安全確保(長い計測棒を使い立ち入らずに測定)
- 呼吸用保護具の使用方法:防じんマスク・防毒マスクは酸欠現場で使用不可の理由・酸素欠乏危険場所で使用できる保護具(給気式空気呼吸器・エアラインマスク・自給式空気呼吸器)の種類と特徴・着脱方法と着用確認・予備ボンベの携行基準・使用時間の計算方法
- 救急蘇生の方法(実技):心肺蘇生法(胸骨圧迫30回・人工呼吸2回のサイクル)の実習・AEDの使用方法と実習・二次災害防止(倒れた人を立入らずに救出する方法)・搬出後の蘇生措置・医療機関への搬送手順・携帯酸素吸入器の使用方法
- 関係法令:施行令第6条第21号・酸素欠乏症等防止規則の全体構成・選任義務(酸欠則第27条)・作業主任者の職務(酸欠則第28条)・立入禁止(第9条)・換気の義務(第5条)・測定の義務(第3条)・第1種と第2種(硫化水素危険)の区別
修了考査の内容と合格基準
最終日の最後に修了考査(学科・実技)が実施されます。各科目40点以上かつ総合60点以上で合格です。合格率は非常に高く、2日間の講義と実技実習をしっかり受ければほぼ全員が合格できます。合格者には「酸素欠乏危険作業主任者技能講習修了証」が交付されます。
難易度・合格の目安
酸素欠乏危険作業主任者の修了考査は合格率が非常に高く、2日間の講義・実習を集中して受ければほぼ全員が合格できます。学科試験では酸素濃度の数値(18%未満が危険・各濃度での症状)・使える呼吸用保護具の種類・酸欠則の主要条文が頻出です。実技試験は酸素濃度計の操作と心肺蘇生(胸骨圧迫・人工呼吸・AED)の手順が問われます。受講資格の制限がないため、地下工事・設備保全・農業・食品業等の幅広い業種で受講されます。
キャリアパスと需要
建設・設備・製造・農業まで幅広い業種で必要な資格
建設会社(地下工事・トンネル工事・上下水道工事)・設備管理会社(地下ピット・マンホール保守)・プラント会社(タンク内部作業)・農業法人(果実・野菜の貯蔵庫管理)・食品会社(サイロ・発酵タンク管理)・造船会社(船倉内作業)・化学メーカー(反応缶・貯蔵タンクの内部作業)が主な就業先です。酸素欠乏危険場所は特定の業種に限らず幅広く存在するため、非常に多くの業種で作業主任者の確保が必要です。
酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者(第2種)への発展
下水道工事・汚水処理施設・し尿処理施設等では硫化水素中毒のリスクも伴うため「酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者(第2種)」の選任が義務付けられています。第2種講習は3日間で第1種より受講時間が長く、硫化水素の発生原因・防止措置・測定方法も加わります。第2種修了者は第1種対象の場所にも対応できるため、下水道工事・汚泥槽を扱う施設では第2種の取得を推奨します。
豆知識:酸素欠乏事故の恐ろしさ
「見た目は普通の空気」なのに致死の罠
酸素欠乏になった空気は無色・無臭・無味で、見た目は普通の空気と全く区別がつきません。臭いや煙等の見える異変がないため、危険に気づかないまま空間に入った作業員が意識を失う事故が毎年発生しています。酸素濃度が16%を下回ると頭痛・めまいが起き、12%以下では数秒〜数十秒で意識を失い、6%以下ではほぼ即死します。酸欠事故の特徴は「一人が倒れると助けに入った人も倒れる」二次災害の多さで、毎年の死者の約半数が救助しようとした同僚です。
「マンホール酸欠事故」が繰り返される理由
マンホール・下水道ますの内部は、雨水・下水の滞留・土中の嫌気性微生物の活動・腐食した金属の酸素消費等によって酸素濃度が急落します。特に雨天後や気温の高い夏は酸素濃度の低下速度が早く危険です。「昨日作業した時は問題なかった」という過信から測定を省略した結果として事故になるケースが後を絶ちません。酸素欠乏危険作業主任者は毎回の作業前に必ず酸素濃度を測定し、18%以上を確認してから作業員を入坑させる義務があります。
果実貯蔵庫や農業用サイロにも酸欠のリスクがある
意外と知られていないのが農業施設での酸欠リスクです。りんご・みかん・キウイフルーツ等の果実は収穫後も呼吸を続け酸素を消費します。低温・密閉の貯蔵庫に果実を大量に貯蔵すると庫内の酸素濃度が大きく低下します。農業用サイロ(とうもろこし・稲わら等を貯蔵)でも発酵過程で酸素が消費され二酸化炭素・一酸化炭素が発生します。農業の現場でも酸素欠乏危険作業主任者の選任と適切な入庫前の酸素濃度測定が不可欠です。
よくある質問
Q. 防じんマスクや防毒マスクでは酸欠の場所に入れないのですか?
防じんマスクは粉じんを除去するものであり、酸素自体を供給しません。防毒マスクも有毒ガスを除去するだけで酸素を補給できないため、酸素欠乏状態の場所では無効であり着用して入ると即座に意識を失います。酸素欠乏危険場所では必ず「給気式」の呼吸用保護具(自給式空気呼吸器・エアラインマスク・送気マスク)を使用する必要があります。「保護具をつけているから大丈夫」という誤認識が事故につながるため、作業主任者による使用保護具の確認が極めて重要です。
Q. 第1種修了証があれば下水道工事の作業主任者にも選任できますか?
下水道工事・汚水槽・し尿処理施設等では硫化水素中毒のリスクも伴うため、「酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者(第2種)」の選任が義務付けられており、第1種(酸素欠乏危険作業主任者)の修了証では選任できません。第2種の修了者は第1種対象の場所にも対応できます。下水道工事や汚泥処理施設を担当する会社では、第2種の取得を優先することをお勧めします。
こんな方におすすめ
- 地下工事・トンネル工事・上下水道工事の現場で、マンホール・地下ピットの安全管理を担う作業主任者になりたい方(受講資格不要で挑戦しやすい)
- 設備管理会社・プラント会社で地下タンク・密閉容器の内部作業を担当し、作業主任者として選任されたい方
- 農業法人・食品会社でサイロ・果実貯蔵庫の安全管理を担い、酸欠事故のリスクを体系的に学びたい方
- 酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者(第2種)への取得を見据え、まず第1種で基礎知識を習得したい方
最新の講習日程・受講料・申込方法の詳細は各都道府県の労働基準協会または建設業労働災害防止協会(建災防)にお問い合わせください。
公式情報(厚生労働省):酸素欠乏危険作業主任者技能講習規程(厚生労働省)
