コンクリート破砕器作業主任者とは?
制度の概要・現状・関連資格を解説
コンクリート破砕器作業主任者は、労働安全衛生法に基づいて定められた実在の国家資格です。ただし、この記事を読むうえで最初に知っておいていただきたい重要な事実があります。この資格を取得するための技能講習は2011年1月13日をもって終了しており、現在は新規に取得する手段が事実上存在しません。
資格の根拠となる法律・省令は今も廃止されていないのに、なぜ新規取得だけができなくなったのか。この記事では、その理由を隠さず、正直に解説していきます。「これから目指す資格」としてではなく、「制度としては現存するが実質的に閉じているレガシー資格」として読んでいただければと思います。
コンクリート破砕器作業主任者の概要
コンクリート破砕器作業主任者とは、コンクリート破砕器を用いてコンクリート構造物を破砕する作業において、労働災害を防止するために現場を指揮・監督する役割を担う作業主任者です。名称に「コンクリート」とありますが、扱う対象は火薬類であり、位置づけとしては発破作業に近い危険物取扱系の資格です。
※ コンクリート破砕器とは、プラスチック容器に詰めた火薬類(火工品)のこと。発破(ダイナマイト等)より低騒音・低振動でコンクリート構造物を破砕できるとされていた。
制度の仕組み
労働安全衛生法では、危険性の高い一定の作業について、事業者に「作業主任者」を選任する義務を課しています。コンクリート破砕器を用いる作業もその対象のひとつで、現場では有資格者が作業方法の決定や労働者の指揮、器具の点検などを行うことになっていました。
作業主任者は国家資格の中でも「技能講習修了者」というカテゴリーに属します。試験による選抜ではなく、決められたカリキュラムの講習を受講し、修了試験に合格することで資格を得る形式です。
根拠法令
この資格の法的根拠は、労働安全衛生法第14条、および労働安全衛生規則第321条の2〜4(作業主任者の選任義務)です。技能講習の実施内容そのものは、昭和50年9月25日労働省告示第72号の技能講習規程で定められていました。
※ 労働安全衛生規則とは、労働安全衛生法に基づいて厚生労働省が定める省令で、具体的な作業手順や資格要件などの実務的なルールを規定したもの。
なぜ今は取得できないのか
結論から言うと、資格制度自体は今も法令上存続していますが、技能講習を実施する登録教習機関が現存しないため、新規に受講する手立てがありません。これは制度が「廃止」されたのではなく、講習の実施基盤が失われたことで「事実上取得不可能」になったという、やや特殊な状態です。理由は後述する「講習終了に至った歴史」で詳しく説明します。
制度の現状(かつての講習内容・費用の目安)
現在この資格を新規に取得することはできませんが、記録として残っているかつての講習内容を紹介します。まず受講資格からして特殊で、誰でも受講できるものではありませんでした。甲種・乙種火薬類製造保安責任者免状の保持者、鉱山保安法上の上級保安技術職員試験合格者、発破係員試験合格者など、あらかじめ火薬類の取扱いに関する一定の資格や実務経験を持つ人に限定されていたのです。一般的な技能講習と比べても受講のハードルはかなり高い部類に入ります。
※ 発破係員とは、火薬類を使って岩石やコンクリートなどを爆破する「発破」作業を指揮する資格者のこと。鉱山や土木工事の現場で選任される。
講習時間は合計10時間で構成されていました。内訳は、火薬類に関する知識が1時間、コンクリート破砕器の取扱いに関する知識が2時間、破砕の方法に関する知識が4時間、作業者に対する教育等に関する知識が1時間30分、関係法令が1時間30分で、最後に修了試験が行われます。受験資格の時点で火薬取扱いの基礎知識がある人に限定されているため、講習自体は「実務経験者向けの専門講習」という色合いが強いものでした。
受講料の目安は、実施団体の会員であれば1万5千円〜1万8千円程度、非会員であれば2万円〜2万3千円程度だったとされています(当時の実施団体の料金体系に基づく)。決して安価ではなく、火薬類を扱う専門講習らしい水準の費用感だったといえます。
かつて活かされていた仕事・関連する職種
土木・解体工事の現場監督
橋脚や擁壁など、周辺環境への騒音・振動を抑えたい解体・改修工事の現場で、作業主任者として選任されるケースがありました。市街地に近い現場では、発破のような大きな振動を避けたいというニーズがあり、コンクリート破砕器はその選択肢のひとつとして活用されていました。
火薬類取扱いの専門技術者
もともと火薬類製造保安責任者や発破係員などの資格を持つ技術者が、業務の幅を広げる形でこの資格を取得していました。火薬類全般を扱うキャリアの延長線上にある、専門性の高い資格のひとつという位置づけです。
トンネル・岩盤掘削工事の技術者
トンネル工事や岩盤の掘削現場でも、状況によっては低振動・低騒音の破砕手段が求められることがあり、地山の掘削工事に関わる技術者がこの資格を保有しているケースもありました。発破が使いにくい条件下での代替手段として活用されていたのです。
誕生の背景・そして講習終了に至った歴史
制度創設の経緯
コンクリート破砕器作業主任者の技能講習規程は、昭和50年(1975年)9月25日労働省告示第72号として定められました。当時、コンクリート構造物の解体・破砕作業において、火薬を用いた発破よりも周辺環境への影響が小さい工法として、コンクリート破砕器を使った作業が普及し始めていました。危険性の高い火工品を扱う作業であることから、労働災害防止の観点で専門の作業主任者制度が設けられたという経緯です。
※ 火工品とは、火薬・爆薬を使って作られた製品の総称。コンクリート破砕器のほか、雷管や導火線なども火工品に含まれる。
2010年メーカー製造中止〜2011年講習終了
この資格が「レガシー資格」となった直接の原因は、コンクリート破砕器そのものの供給が途絶えたことにあります。国内でコンクリート破砕器を製造していたメーカーが2010年に新規製造を中止したことで、そもそも作業自体に使う器具が市場から入手できなくなりました。
使う対象がなくなれば、それを扱うための技能講習を続ける意味も薄れます。こうした背景から、コンクリート破砕器作業主任者の技能講習は2011年1月13日をもって終了しました。法令上の資格制度そのものが廃止されたわけではなく、あくまで「講習を実施する体制がなくなった」という形で、実質的に新規取得の道が閉ざされた形です。工法自体が、より安全に扱いやすい静的破砕剤(後述)などに置き換わっていったことも背景のひとつと考えられます。
どんな人が保有しているのか
既存の技能講習修了者
現在この資格を保有しているのは、2011年1月13日より前に技能講習を修了した人に限られます。作業主任者の資格自体には更新や失効の制度がないため、修了証を持つ人は今も有効な資格者として扱われますが、その数は年々自然減少していく一方です。
火薬類取扱いの経験が豊富な技術者
前述のとおり受講資格自体が「火薬類製造保安責任者免状保持者」「発破係員試験合格者」など限定的だったため、保有者はもともと火薬類の取扱いに精通したベテラン技術者が中心です。他の資格を持たずにこの資格だけを単独で取得した、というケースはほぼ想定されません。
長年、解体・土木業界に携わってきた技術者
コンクリート破砕器を実際に使う現場が減った現在でも、資格を取得した当時のキャリアを土木・解体業界で継続している技術者は少なくありません。実務でこの資格を使う機会がなくなった今も、経歴の一部として保有し続けている、という位置づけの方が多いとみられます。
豆知識:コンクリート破砕器の〇〇
静的破砕剤との違い
コンクリート破砕作業と聞くと「静的破砕剤」を連想する方もいるかもしれませんが、これはコンクリート破砕器とはまったく別の工法です。静的破砕剤は生石灰系の膨張剤(ブレイスターなどが知られています)で、削孔した穴に流し込んで水和反応による膨張圧でコンクリートにひびを入れて破砕する、火薬を使わない工法です。
一方でコンクリート破砕器は火薬類(火工品)そのものであり、爆轟・爆燃反応によって瞬間的にコンクリートを破砕します。静的破砕剤には作業主任者資格が不要ですが、コンクリート破砕器には火薬類を扱う専門資格が必要という点が、両者の法的な扱いの決定的な違いです。名前が似ているため混同されやすいですが、原理も必要な資格もまったく異なる工法だと覚えておいてください。
※ 静的破砕剤とは、生石灰などを主成分とし、水と反応して膨張する性質を利用してコンクリートにひびを入れる薬剤。火薬を使わないため騒音・振動が少なく、現在の解体現場で広く使われている。
発破との比較
発破(ダイナマイトなど)と比べると、コンクリート破砕器は威力が小さく、破砕範囲を限定しやすいという特徴がありました。市街地や住宅密集地に近い解体現場では、発破のような大きな振動・騒音・飛散物のリスクを避けたいというニーズがあり、その中間的な選択肢としてコンクリート破砕器が使われていた時期があったのです。
とはいえ、あくまで火薬類である以上、静的破砕剤ほど手軽に扱えるものではありません。より安全で取り扱いやすい静的破砕剤や油圧ブレーカーなどの工法が普及するにつれて、コンクリート破砕器を積極的に選ぶ理由は薄れていきました。これも、メーカーが新規製造を中止した背景のひとつと考えられます。
まとめ ― 制度は残るが、道は閉ざされた資格
レガシー資格としての位置づけ
コンクリート破砕器作業主任者は、労働安全衛生法という現役の法律に根拠を持つれっきとした国家資格でありながら、実際に取得する手段がすでに失われているという珍しい状態にあります。これは資格制度の「廃止」ではなく、講習を実施する器具メーカー・実施団体の消滅による「事実上の休眠」です。今から新しく目指せる資格ではないという点は、誤解のないようあらためて明記しておきます。
- すでに技能講習を修了しており、資格の背景を確認したい方
- 火薬類・破砕工法の歴史や制度の変遷に関心がある方
- 土木・解体業界の資格制度について調べている方
代わりに目指せる関連資格
これから火薬類や破砕・発破関連の資格を目指すのであれば、現在も新規取得が可能な関連資格に目を向けるのがおすすめです。代表的なものに、発破作業の技士資格である発破技士、火薬類の保安管理に関わる火薬類取扱保安責任者・火薬類製造保安責任者、そして地盤に関わる工事で必要になる地山の掘削及び土止め支保工作業主任者があります。いずれも現在も講習・試験の実施団体が存続しており、実務に直結する形で取得を目指せます。
公式サイト:労働安全衛生規則(JAISH)
