
手話を学び始めて「せっかくなら資格を取りたい」と思ったとき、名前の似た検定や資格がいくつも出てきて迷う人は多いはずです。とくに「手話技能検定」と「手話通訳士」は混同されがちですが、この二つは性格がまるで違います。この記事では、手話にかかわる主な資格を整理し、「趣味やスキルの証明として学ぶのか」「通訳を仕事にしたいのか」という目的から、自分に合う一つを選べるように解説します。
ひとことで言うと:級を測る”検定”か、通訳の”職業資格”か
先に大きな違いをお伝えします。目的に近いほうを見てください。
| あなたの目的 | 合う資格 |
|---|---|
| 手話の力を級で証明したい(趣味・スキルアップ) | 手話技能検定 |
| 手話通訳のプロとして認められたい(仕事) | 手話通訳士 |
片方は誰でも受けられて級で実力を測る民間検定、もう片方は通訳のプロを認定する公的資格で、めざす方向がそもそも違います。それぞれ詳しく見ていきましょう。
手話技能検定:手話の力を級で測る民間検定

手話技能検定は、NPO法人手話技能検定協会が実施する民間検定です。手話の言語としての運用能力を、級を追って体系的に測ります。級は7級から1級まで、間に準2級・準1級を挟んで細かく分かれており、入門者から上級者まで自分の今の実力に合わせて受けられます。
下位から中位の級は筆記試験が中心で、年齢や学歴を問わず誰でも挑戦できます。上位の1級・2級では実技試験が課され、上の級を受けるには下の級の合格が条件になります。手話を学ぶモチベーションを保ちたい人、履歴書などで「これくらい手話ができる」と客観的に示したい人に向いた検定です。
級が細かく刻まれているのは、学習者にとって大きな利点です。手話は覚えることが多く、独学だと「どこまで身についたのか」が見えにくくなりがちですが、7級・6級と一つずつ合格を重ねていけば、上達を実感しながら続けられます。地域の手話サークルや講習会に通いながら、節目ごとに検定で力だめしをする、という使い方をしている人も少なくありません。
手話通訳士:通訳のプロを認定する公的資格

一方の手話通訳士は、正式には手話通訳技能認定試験といい、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターが実施しています。厚生労働大臣の認定にもとづく公的資格で、手話通訳のプロフェッショナルを認定するものです。試験は学科に加えて、話を聞いて手話にする「聞取り通訳」と、手話を読んで日本語にする「読取り通訳」の実技があり、かなりの難関です。
※ 名称独占資格とは、その資格を持つ人だけが名前を名乗れる資格のこと。手話通訳士の場合、資格がなくても手話通訳の仕事自体はできますが、「手話通訳士」を名乗れるのは合格者だけです。
受験は満20歳以上であれば可能で、通訳経験が必須というわけではありません。ただし合格率は平均して1割台という狭き門で、手話の力に加えて、二つの言語を正確に橋渡しする通訳技術が求められます。手話通訳を職業にしたい人にとって、一つの到達点となる資格です。
手話通訳士が活躍する場は、病院や役所、裁判、講演会、テレビの手話通訳など多岐にわたります。聞こえる人と聞こえない人のあいだに立ち、その場のやり取りを正確に、そして間違いなく伝える責任の重い仕事です。単語を置き換えるだけでなく、話の意図や場の空気まで含めて橋渡しする必要があるため、高い技術と豊富な経験が欠かせません。難関とされるのは、それだけ現場で問われるものが大きいからです。
混同しやすい「全国手話検定試験」との違い
もう一つ、名前がよく似ていて混同されやすいのが「全国手話検定試験」です。これは社会福祉法人全国手話研修センターが実施するもので、手話技能検定とは実施団体からして別の、まったく異なる検定です。
ざっくり言うと、手話技能検定が「手話を言語としてどれだけ運用できるか」を体系的に測るのに対し、全国手話検定試験は「ろう者と実際にどれだけ通じ合えるか」というコミュニケーション力・現場感覚を重視する傾向があります。どちらも級で実力を示せる検定ですが、軸が少し違うと覚えておくと、選ぶときに迷いません。名前が似ているだけに、申し込みの際はどちらの検定かをよく確認しましょう。
結局、どれを目指せばいい?
目的別に整理すると、選び方はシンプルです。
- 趣味や学び直しで、手話の上達を段階的に確認したい→手話技能検定(または全国手話検定試験)
- 手話通訳を仕事にし、プロとして認められたい→手話通訳士
大切なのは、いきなり難関の手話通訳士を目指す必要はない、ということです。多くの人は、まず手話技能検定などで基礎から力をつけ、地域の手話サークルや講習会で経験を積みながら、通訳を志すなら手話通訳士へと段階的に進みます。自分が今いる場所と、行きたい場所の両方を見て選べば、無理なく続けられます。
また、手話通訳を仕事にするルートは、手話通訳士だけではありません。各地の自治体には、手話通訳者全国統一試験に合格し、都道府県の登録を経て派遣現場で活動する「登録手話通訳者」という仕組みもあります。全国レベルの公的資格が手話通訳士だとすれば、こちらは地域に根ざした通訳の担い手です。どちらも聞こえない人の暮らしを支える大切な役割で、地域で活動したいのか、資格として全国に通用する肩書がほしいのかによって、目指す先が変わってきます。
持ち帰り豆知識:難関なのに「名乗れるだけ」の資格
手話通訳士には、少し不思議な特徴があります。合格率が平均1割台という難関でありながら、この資格は名称独占にとどまり、資格がなくても手話通訳の仕事自体はできるのです。つまり「手話通訳士」と名乗れること自体が、高い技能の証明になっているわけです。
難易度と権限のこのギャップは、手話通訳という仕事の性格をよく表しています。資格の有無より「実際に正確に通訳できるか」が現場では問われる。だからこそ、その力を客観的に保証する名称として、手話通訳士が重んじられているのです。逆に言えば、資格を持たなくても手話でだれかを助けることはできる、ということでもあります。手話の学びは、級の取得がゴールではなく、人と人をつなぐ実践そのものが目的だと気づかせてくれます。
まとめ:目的で選べば迷わない
手話の資格は、級で力を測る手話技能検定と、通訳のプロを認定する手話通訳士とで、性格がはっきり分かれています。似た名前の全国手話検定試験や、自治体登録の手話通訳者ルートも含め、「自分は何のために手話を学ぶのか」から選べば、名前の紛らわしさに惑わされることはありません。
最初の一歩としておすすめなのは、手話技能検定の入門級の出題範囲を見て、まず手を動かして学び始めること。地域の手話講習会と組み合わせれば、資格の勉強がそのまま人とつながる練習になります。手話は、テキストを眺めるだけでなく、実際に手を動かし、人と交わすなかで身についていくものです。級を一つずつ取っていく過程そのものが、聞こえない人の世界に近づいていく道のりになります。そこから先の道は、続けるなかで自然と見えてきます。
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