強度行動障害支援者養成研修とは?
概要・研修構成・取得後に活かせる場面を解説
強度行動障害支援者養成研修の概要
強度行動障害支援者養成研修は、自傷や他害といった激しい行動を頻回に示す「強度行動障害」のある方に、適切に向き合うための知識と技術を学ぶ研修です。国家資格ではなく、都道府県または都道府県が指定した研修事業者が実施する公的な研修事業という位置づけになります。
※ 強度行動障害とは、自分を叩く・激しく物を壊す・他者に危害を加えるといった行動が、通常とは異なる頻度や強さで持続的に見られる状態を指す言葉です。本人の障害特性そのものというより、周囲の環境や関わり方との相互作用の中で強まっていくと考えられています。
この研修は、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知「強度行動障害支援者養成研修事業の実施について」に定められた運営要領に基づいて行われています。直近の改正は令和5年4月28日付で、全国どの都道府県で受講しても一定の水準が保たれるよう、講義・演習の内容や時間数が細かく定められているのが特徴です。
研修の出題範囲と形式
この研修には筆記試験のような合否判定型の「試験」はなく、講義と演習を受講し、内容を修了することで「修了証」が交付される仕組みです。研修は「基礎研修」と「実践研修」の2段階に分かれており、基礎研修が土台、実践研修がその応用というステップアップ構成になっています。
研修修了の具体的な認定方法(理解度をどう確認するかなど)については、国の通知そのものには詳細な規定がなく、各研修事業者が学則等で定めて公開する事項とされています。そのため「どのように修了と判定されるか」は実施主体によって多少異なる可能性がある点は、正直なところとして押さえておきたいポイントです。
受講資格・対象者
年齢制限についての明確な記載はありません。基礎研修は、障害福祉サービス事業所などで知的障害・精神障害のある児童や成人の支援に従事している(または従事する予定の)方、連携する医療従事者、特別支援学校の教師などが対象とされています。実践研修は、基礎研修を修了していることが受講の前提となります。
※ 実践研修は基礎研修の「上位互換」ではなく、基礎研修で学んだ考え方を、より個別性の高い支援計画の作成や実践的な演習に落とし込んでいく研修です。基礎を飛ばして実践研修だけを受けることはできません。
行動援護・重度訪問介護の研修との関係
強度行動障害の支援に関する研修としては、ほかに「行動援護従業者養成研修」や「重度訪問介護従業者養成研修(行動障害支援課程)」があります。これらは対象とする障害福祉サービスの種類こそ異なるものの、扱う内容(強度行動障害の理解・環境調整・行動分析の考え方など)が大きく重なっているため、通知上は合同で開催することが認められています。
そのため、実際の研修現場では「強度行動障害支援者養成研修」と「行動援護従業者養成研修」を同じ会場・同じカリキュラムでまとめて実施しているケースも見られます。どの研修の修了証が必要かは、自分が働く(働きたい)サービスの種類によって変わってくるため、就業先や希望する職種に応じて確認しておくと安心です。
難易度・研修時間の目安
基礎研修は講義6.5時間・演習5.5時間の合計12時間、実践研修は講義3.5時間・演習8.5時間の合計12時間というボリュームです。実践研修になるほど演習の比重が増えることからも分かるとおり、座学で知識を詰め込む研修というよりは、実際の支援場面を想定したロールプレイやケース検討を重視した内容になっています。
いずれも2日間程度の日程で組まれることが多く、事前の資格や実務経験が前提とされているぶん、未経験の方がいきなり内容を理解するのは簡単ではありません。とはいえ、暗記中心の試験対策のような負担は少なく、現場経験のある方であれば「今まで感覚でやっていたことが言語化される」感覚を持ちやすい研修ともいわれています。
※ 演習では、実際の利用者を想定した支援計画のシートを作成したり、行動の背景にある要因を分析するワークを行ったりします。知識だけでなく「その場で考えて手を動かす」力が求められる点が、座学中心の研修との大きな違いです。
基礎研修・実践研修の構成
この研修の大きな特徴は、いきなり全体像を一度に学ぶのではなく、基礎研修と実践研修の2段階に分けてステップアップしていく構成になっている点です。それぞれの時間配分と内容を表にまとめます。
| 区分 | 講義 | 演習 | 合計時間 | 主な対象・前提 |
| 基礎研修 | 6.5時間 | 5.5時間 | 12時間 | 障害福祉サービス事業所の従事者(予定者含む)・連携医療従事者・特別支援学校教師など |
| 実践研修 | 3.5時間 | 8.5時間 | 12時間 | 基礎研修修了者が前提 |
表を見ると分かるとおり、基礎研修から実践研修に進むにつれて演習の割合が大きく増えています。基礎研修で強度行動障害の考え方や基本的な支援の枠組みを学び、実践研修でそれを個別の事例に当てはめて具体的な支援計画に落とし込んでいく、という段階的な設計です。
※ 受講料については、都道府県が直接実施する場合は無料となる場合があるとされていますが、都道府県が指定した研修事業者が実施する場合は受講料を含めて受講者負担となることが通知で定められています。具体的な金額は開催する自治体・事業者によって異なり、通知そのものには金額の記載がないため、受講を検討する際は開催元に直接確認することをおすすめします。
取得後に活かせる仕事・関連する職種
障害福祉サービス事業所の直接支援員
生活介護や共同生活援助(グループホーム)、短期入所などの事業所で、強度行動障害のある利用者に直接関わる支援員として研修の内容を活かせます。行動の背景にある要因を分析し、環境を整えることで行動を落ち着かせるアプローチを学べるため、支援の引き出しが増えたと感じる方が多いようです。
サービス管理責任者・現場のリーダー職
実践研修まで修了することで、個々の利用者に合わせた支援計画をより具体的に立てられるようになり、現場のリーダーやサービス管理責任者として他のスタッフを指導する立場でも役立ちます。事業所内で強度行動障害への対応方針を統一していくうえで、共通言語となる知識を持つ人材は重宝されます。
相談支援専門員・行政の福祉担当者
直接的な支援の現場だけでなく、相談支援専門員や自治体の障害福祉担当者にとっても、強度行動障害に関する制度や支援の考え方を理解しておくことは、利用者や家族からの相談に的確に応じるうえで役立ちます。事業所選びや支援計画の調整を行う際の判断材料にもなります。
※ 実践研修修了者などの配置は、障害福祉サービスの一部で設けられている「重度障害者支援加算」などの報酬加算の算定要件に関わってくる場合があります。ただし具体的な算定要件は制度改定のたびに見直されるため、正確な内容は最新の報酬告示や自治体の案内で個別に確認することが必要です。
誕生の背景・歴史
平成29年:研修事業としての創設
この研修事業は、平成29年8月3日付の厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知「強度行動障害支援者養成研修事業の実施について」によって全国的な枠組みが整えられました。背景には、自傷・他害などの行動を頻回に示す強度行動障害者への対応が現場任せになりがちで、支援の質にばらつきが生じていたという課題があります。
適切な知識や技術を持たないまま支援にあたると、事業所側が受け入れに消極的になってしまったり、最悪の場合は不適切な身体拘束など虐待に近い対応につながってしまったりする懸念が指摘されてきました。こうした事態を防ぎ、全国どこでも一定水準の支援ができる人材を計画的に育成する目的で、この研修が制度化されています。
※ 障害者虐待防止法などの整備が進む中で、「支援者側の知識・技術不足」が虐待や不適切な対応の一因になり得るという問題意識が、この研修制度が生まれた大きな理由のひとつになっています。
令和5年の改正以降:現在への変遷
その後、令和5年4月28日付で運営要領の改正が行われ、直近の制度としてアップデートされています。行動援護従業者養成研修や重度訪問介護従業者養成研修との合同開催が認められるようになったのも、こうした見直しの中で整理されてきた経緯です。強度行動障害への支援ニーズが高まる一方で、対応できる人材や事業所が限られているという課題感は現在も続いており、研修の実施体制は今後も見直されていく可能性があります。
どんな人が、どんな目的で取得しているのか
すでに現場で働いていて対応に悩んでいる支援員
すでに障害福祉の現場で働いており、自傷・他害などの行動に日々向き合う中で「今のやり方で本当に良いのか」と悩んでいる支援員の方が受講するケースは多いようです。感覚や経験則だけに頼っていた対応を、行動の背景要因を分析するという体系的な視点で捉え直せるようになったという声が聞かれます。
事業所として受け入れ体制を整えたい管理者
強度行動障害のある利用者の受け入れに消極的になりがちな事業所において、管理者やサービス管理責任者が自らこの研修を修了し、スタッフ育成の旗振り役になろうとするケースもあります。研修修了者を配置することで報酬加算につながる可能性があることも、事業所として研修受講を後押しする一因になっています。
特別支援学校・医療機関から福祉現場に関わる人
特別支援学校の教師や、障害福祉サービスと連携する医療従事者も基礎研修の対象に含まれています。学校や医療の立場から強度行動障害のある子ども・患者に関わる方が、福祉現場との共通理解を持つために受講することもあります。立場の異なる関係者が同じ枠組みで学ぶことで、支援の一貫性が保ちやすくなるというメリットがあります。
豆知識:強度行動障害という言葉の意外な歴史
「強度行動障害」は医学的な診断名ではない
意外と知られていませんが、「強度行動障害」という言葉は医学的な診断名ではなく、支援の必要度を表す行政上・支援現場上の概念です。自閉症や知的障害そのものを指す言葉ではなく、「自傷・他害などの行動が頻回に、激しい形で表れている状態」を指すため、同じ診断名がついていても強度行動障害の状態にある人とそうでない人がいます。この違いを理解しているかどうかで、支援の組み立て方が大きく変わってきます。
合同開催という制度上のユニークな仕組み
この研修のもうひとつの面白い特徴は、行動援護従業者養成研修や重度訪問介護従業者養成研修(行動障害支援課程)と、カリキュラムの重複を理由に合同開催が認められている点です。制度としては別々の研修でありながら、実施する側の判断で1つの会場・1つの日程にまとめられるという、行政の研修としてはやや珍しい柔軟な運用がなされています。受講者からすると、複数の資格・研修を効率よくまとめて学べる機会にもなっています。
※ 合同開催がある一方で、修了証自体は研修の種類ごとに別々に発行されます。「行動援護の研修を受けたつもりが強度行動障害支援者養成研修の修了証しか出なかった」といった行き違いを防ぐため、申込み時にどの研修の修了証が交付されるかを確認しておくと安心です。
まとめ ― 「対応に困る」を「向き合い方がわかる」に変える研修
こんな方にとくにおすすめ
- 障害福祉サービス事業所で強度行動障害のある方の支援に携わっている(携わる予定がある)方
- 感覚や経験則だけに頼らず、行動の背景を体系的に理解して支援したい方
- 事業所としてスタッフ育成や受け入れ体制の整備を進めたい管理者・サービス管理責任者
- 特別支援学校や医療機関の立場から福祉現場との連携を深めたい方
取得に向けた第一歩
まずは自分の勤務先の都道府県、あるいは希望する就業先の都道府県が、この研修をいつ・どのような形式で実施しているかを確認するところから始めるとよいでしょう。基礎研修から実践研修へと段階を踏む必要があるため、すぐに実践研修まで到達できるわけではありませんが、現場での対応力を体系立てて底上げできる研修として、多くの障害福祉サービス事業所で受講が推奨されています。行動援護従業者養成研修や重度訪問介護従業者養成研修との合同開催がないか、あわせて確認しておくと効率よく学べます。
