
動物病院で獣医師を支え、けがや病気の動物の看護にあたる「愛玩動物看護師」。じつはこの資格、2023年に第1回の国家試験が行われたばかりの、とても新しい国家資格です。それまで民間資格だった動物看護師が、国家資格へと生まれ変わりました。この記事では、愛玩動物看護師とはどんな資格なのか、何ができて、どうやったらなれるのかを、これまでの民間資格だった動物看護師との違いを軸に、やさしく解説していきます。
愛玩動物看護師とは:民間資格から国家資格へ

愛玩動物看護師は、愛玩動物看護師法にもとづく国家資格です。この法律は2019年に公布され、2022年に施行されました。そして2023年2月には、記念すべき第1回の国家試験が実施されました。制度の準備に、公布から数年をかけて臨んだ資格です。
それまで「動物看護師」は、各団体がそれぞれ独自に認定する民間資格でした。そのため、仕事の範囲や職業としての位置づけが法律で定まっておらず、待遇や社会的な認知の面で不安定なところがありました。国家資格になったことで、獣医療チームの一員としての役割が法律ではっきりと裏づけられ、安心して働ける土台が整ったのです。資格を持つ人だけが「愛玩動物看護師」を名乗れる、名称独占の資格でもあります。
国家資格になって「できるようになったこと」
国家資格化の一番大きな意味は、これまで獣医師にしか認められていなかった一部の医療行為が、愛玩動物看護師にもできるようになった点です。
具体的には、獣医師の指示のもとで、採血や投薬、点滴のためのカテーテルの留置、マイクロチップの装着といった「診療の補助」ができます。これらは動物病院の日々の診療に欠かせない行為で、愛玩動物看護師が担えるようになったことで、獣医師はより専門的な診断や治療に集中できるようになりました。ただし、病気の診断やエックス線撮影といった、動物の体への影響が大きい行為は、引き続き獣医師だけが行います。
この「診療の補助」が国家資格者に任せられるようになった意味は小さくありません。動物病院はしばしば少人数で回っており、獣医師がすべてを抱えると、一頭一頭に十分な時間をかけにくくなります。看護のプロが採血や投薬を安全に担えることで、診療の流れがスムーズになり、動物にとっても飼い主にとっても、より丁寧なケアが受けやすくなります。人の医療で看護師が果たす役割を、動物医療でも担えるようになった――そう考えると、この資格の重みが見えてきます。
対象は「犬・猫と一部の鳥」という面白い定義
この資格には、対象となる動物にユニークな決まりがあります。「愛玩動物」とされるのは、犬・猫と、政令で定められた一部の鳥(オウム科・カエデチョウ科・アトリ科の鳥)です。
※ 判断のポイントは「飼っている目的」ではなく「動物の種類」です。たとえばペットとして飼っているウサギやカメは対象に含まれず、牛や豚などの産業動物も対象外です。
つまり、名前に「愛玩」とついていても、かわいがっているかどうかではなく、動物の種類で線引きされているわけです。この定義を知っておくと、資格の守備範囲がはっきりイメージできます。裏を返せば、牛や豚などの産業動物を診る獣医療は、この資格の対象外ということでもあります。動物看護の世界にも、人の医療とはまた違った専門分野の分かれ方があるのだと分かる、興味深い決まりです。
なるには:養成校ルートと経過措置
これから愛玩動物看護師を目指す人の基本ルートは、指定を受けた大学や養成所(3年制以上)で学び、国家試験に合格する道です。動物看護の専門知識と技術を体系的に身につけてから、試験に臨みます。
もう一つ、制度が始まったばかりの今ならではの道として、経過措置があります。これは、すでに動物看護師として働いている人や、施行前に学んでいた人が、講習会や予備試験を経て受験資格を得られる仕組みです。長年現場を支えてきた人が国家資格に移行できるよう用意された特例で、期間が限られています。これから新しく目指す人は、養成校ルートが基本になります。
高校生などがこれから進路として選ぶなら、まずは指定を受けた大学や専門学校に進むことを考えるとよいでしょう。動物の体のしくみや看護の技術、飼い主とのコミュニケーションまで、幅広く学べます。動物が好きという気持ちはもちろん大切ですが、それだけでなく、命と向き合う責任や、地道なケアを続ける根気も求められる仕事です。学びの段階でその両面に触れておくことが、長く続けられる土台になります。
トリマーや動物看護助手とは何が違う?
動物にかかわる仕事には、トリマーや動物看護助手、ペットシッターなど、特別な資格がなくても就けるものがたくさんあります。それらと愛玩動物看護師との違いを知っておくと、進路を考えるときの大きな助けになります。
これらの無資格の仕事は、動物のお世話やトリミング、飼い主への助言などはできますが、採血や投薬といった診療の補助はできません。診療の補助を担え、「愛玩動物看護師」という名称を独占できる点で、国家資格である愛玩動物看護師は、これらの仕事と明確に一線を画しています。動物医療の現場でより専門的に関わりたいなら、この資格が力になります。
もちろん、トリマーやペットシッターも動物の暮らしを支える大切な仕事で、優劣があるわけではありません。ただ、目指す方向によって取るべき資格は変わります。動物の「医療」に踏み込んで携わりたいなら愛玩動物看護師、被毛のケアや美容を専門にしたいならトリマー、というように、自分がどの角度から動物に関わりたいのかを考えると、進む道が定まります。国家資格ができたことで、「動物看護のプロ」という進路がこれまで以上にはっきりと描けるようになりました。
持ち帰り豆知識:2つの省が管轄する珍しい資格
愛玩動物看護師には、少し変わった特徴があります。この資格を管轄しているのは、農林水産省と環境省の2つの省です。1つの資格を2つの省が共同で所管するのは珍しく、動物の福祉と、人と動物の関わりの両面から支える資格であることがうかがえます。
もう一つ、第1回の国家試験には、経過措置の対象となる現役の動物看護師が数多く受験しました。そのため合格者は1万8千人を超え、合格率はおよそ89%と高い数字になりました。翌年の第2回では受験者の顔ぶれが変わり、合格率はおよそ69%に。制度が始まったばかりの資格ならではの、移り変わりが数字にも表れています。
まとめ:新しい国家資格で動物医療を支える
愛玩動物看護師は、2023年に第1回の国家試験が行われたばかりの新しい国家資格です。民間資格だった動物看護師が国家資格へと生まれ変わったことで、採血や投薬などの診療の補助を担えるようになり、動物医療のなかでの役割がぐっとはっきりしました。
動物が好きで、その健康を専門的に支えたいなら、最初の一歩は、指定を受けた養成校のカリキュラムを調べてみることです。どんなことを学び、卒業後にどんな現場で働けるのかを知れば、この新しい資格への道のりが具体的に見えてきます。国家資格になったばかりで、これから制度も職場も成熟していく分野だけに、早くから関わる人にとってはやりがいの大きい仕事になるはずです。
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