金属アーク溶接等作業主任者とは?
技能講習修了・2021年新設の法定資格をわかりやすく解説
金属アーク溶接等作業主任者の概要
金属アーク溶接等作業主任者は、屋内での金属アーク溶接・アーク切断作業を行う事業場に選任が義務付けられている法定資格で、2021年4月1日に施行された特定化学物質障害予防規則(特化則)の改正によって新設されました。都道府県労働局長登録の教習機関が実施する「技能講習」を修了することで取得できます。溶接ヒュームが2020年4月に特定化学物質(第2類物質)に指定されたことに伴い、屋内作業での溶接ヒューム管理を担う作業主任者が新たに義務化されました。
※ 溶接ヒュームとは、金属アーク溶接(MIG・MAG・被覆アーク溶接等)や熱切断で高温になった金属が蒸発・凝固して発生する超微細な金属酸化物の粒子(粒径0.1〜1μm程度)です。マンガン・クロム・ニッケル等の有害金属成分を含み、長期吸入によるパーキンソン症候群様神経障害や肺がんリスクが科学的に確認されたことで、2020年に特定化学物質に指定されました。屋内溶接作業での換気・保護具管理が厳格化されています。
新設の背景と対象作業
以下の事業場では金属アーク溶接等作業主任者の選任が義務付けられています(2021年4月1日施行・特化則改正)。
- 対象作業:屋内作業場における金属アーク溶接・アーク切断・ガウジング作業(アークを使う全ての屋内溶接・熱切断作業が対象)
- 製造業(溶接工場):鉄骨・鋼構造物・機械部品・配管・タンク・圧力容器の溶接組み立て工程
- 造船・重工業:船体・船舶部品の屋内溶接作業(屋内ドック・工場内作業が対象)
- 建設業(屋内での鉄骨溶接):建物内部・地下での鉄骨溶接・補修溶接(屋外作業は対象外)
- 自動車修理・整備業:車体修理での屋内溶接(MIG/MAG溶接・スポット溶接でアーク発生あり)
基本情報の早見表
| 取得方法 | 技能講習(都道府県労働局長登録教習機関が実施)→ 修了試験合格 → 修了証書発行 |
|---|---|
| 講習日数 | 2日間(計14時間。学科講習+修了試験。特化物作業主任者保有者は一部免除で1日) |
| 受講資格 | 特に制限なし(溶接業務に従事している方が主な対象) |
| 修了試験 | 学科試験(マークシート・20〜30問程度)。各科目40%以上かつ全体60%以上 |
| 修了証書 | 技能講習修了証(都道府県労働局長名)。永続有効・更新不要 |
| 受講料 | 約12,000〜18,000円(教習機関・地域・免除科目の有無により異なる) |
| 主な実施機関 | 中央労働災害防止協会(JISHA)・産業安全技術館・各都道府県労働基準協会等 |
| 選任義務根拠 | 労働安全衛生法第14条・特定化学物質障害予防規則第27条(2021年4月改正) |
講習内容を詳しく
学科の科目
溶接ヒュームの有害性・作業環境管理・健康管理・法令の4科目が2日間の主な内容です。
- 溶接ヒュームによる健康障害とその予防:溶接ヒュームの発生メカニズム(アーク溶接の種類別のヒューム発生量の違い:被覆アーク溶接>MAG溶接>MIG溶接>TIG溶接)・溶接ヒューム中の有害成分(マンガン・酸化クロム・ニッケル化合物・フッ化物・オゾン・窒素酸化物)・慢性暴露による神経障害(マンガン中毒:パーキンソン症候群様症状)・肺がんリスク(2017年IARCがグループ1=発がん性確認に分類)・溶接工肺・金属熱の症状と対処法
- 作業環境の改善方法:全体換気(換気量計算・換気扇の配置)と局所排気装置(プッシュプル型・外付けフード型・フレキシブルアーム型)の特徴と選定・溶接ヒュームの発散抑制(低ヒューム溶接材料・自動化・溶接条件の最適化)・作業環境測定(マンガン濃度・定点測定・管理濃度0.2mg/m³)の実施方法と管理区分の判定・リスクアセスメントの実施手順
- 健康管理と保護具:溶接作業者の健康診断(雇入れ時・6ヶ月以内ごとに1回・特殊健康診断:神経学的検査・マンガン血中濃度)・電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)の選定(フィルタのマンガン除去効率の確認)・防じんマスク(DS2等)の適切な着用とフィットテスト・顔面保護具(溶接面・遮光ゴーグル)・防護手袋・防護服の選定と管理
- 関係法令:特定化学物質障害予防規則の改正点(2020年・2021年施行)・作業主任者の職務(作業方法の決定・局所排気装置等の点検・保護具の使用確認・健康診断への関与)・特殊健康診断の実施義務・作業環境測定の義務(第2管理区分以下の場合の措置)・個人ばく露測定の導入(2022年改正)
修了試験と免除規定
修了試験合格で修了証書が発行されます。特化物作業主任者技能講習修了者は一部科目が免除されます。
- 形式:マークシート(20〜30問程度)・試験時間約40〜60分
- 合格基準:各科目40%以上かつ全体60%以上
- 特化物作業主任者保有者は「健康障害と予防」「関係法令」科目が免除となり、1日(7時間)の受講で取得可能
- 合格率:講義に集中すれば90%以上が合格。溶接ヒュームの有害性(マンガン・肺がんリスク)と局所排気装置の種類が頻出
難易度・受講の目安
金属アーク溶接等作業主任者の技能講習は2日間(14時間)の講義と修了試験で取得できます。2021年新設の資格であるため教習機関が全国で増加中で、受講しやすくなっています。特定化学物質作業主任者の有資格者は1日(7時間)の短縮コースで受講できます。溶接の現場経験がある方なら、ヒュームの発生状況や換気の必要性を実体験として理解しているため講義内容が定着しやすい資格です。
キャリアパスと需要
製造・建設・造船業の溶接管理者として急需
金属アーク溶接を屋内で行う全ての事業場が対象となるため、製造業・建設業・造船業・自動車修理業など幅広い業種で需要があります。2021年の義務化に伴い、まだ資格者が少ない業種・地域では有資格者の確保が急務となっており、現時点では取得することで職場での評価が得やすい資格です。特に中小溶接工場・鉄骨製造業・自動車板金修理業では、資格者が少ないうちに取得することがキャリア優位につながります。
溶接技能士・特化物作業主任者との組み合わせ
溶接技能士(JIS溶接)・ガス溶接技能講習修了者などの溶接実技系資格と組み合わせることで、技能と安全管理両方を兼ね備えた溶接の専門家として評価が高まります。特定化学物質作業主任者との組み合わせも多く、2つを持つことで屋内の金属加工・表面処理全般の安全衛生管理者として機能します。大手製造業の安全衛生部門・EHS(環境・健康・安全)担当として採用されやすくなります。
豆知識:金属アーク溶接と健康リスクの歴史
溶接工は長年「煙の中で働く職業」だった
20世紀の溶接現場は、防護なしに大量の溶接ヒューム(煙)を作業者が吸い込む環境が一般的でした。「溶接の煙は体に悪い」という経験的な認識はあっても、具体的な健康被害の因果関係の立証・規制化には長い時間がかかりました。2017年に国際がん研究機関(IARC)が溶接ヒュームをグループ1(確実な発がん性)に分類したことが、2020年の日本での特定化学物質指定と2021年の作業主任者義務化の直接のきっかけとなりました。
マンガン中毒は「溶接工のパーキンソン病」と呼ばれた
長期間にわたって溶接ヒューム中のマンガンを吸入し続けると、脳の基底核(とくに黒質)にマンガンが蓄積して神経細胞が障害を受け、パーキンソン症候群様の症状(手の震え・筋肉のこわばり・歩行困難)が現れます。これを「マンガン中毒」と呼び、かつて被覆アーク溶接が主流だった時代に長年溶接に従事した高齢溶接工に見られました。局所排気装置と適切な保護具の普及がこのリスクを大幅に低減させています。
電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)の普及
従来の溶接面+防じんマスクの組み合わせから、ヘルメット型の電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR:Powered Air-Purifying Respirator)への切り替えが進んでいます。PAPRは電動ファンで外気をフィルタに通して清浄空気を顔面に供給するため、自分の呼吸力でフィルタを通す一般マスクより高い防護性能を発揮します。特に溶接ヒューム規制強化以降、製造業・造船業でPAPRの導入が急速に広まっています。
よくある質問
Q. 屋外での溶接作業でも作業主任者の選任は必要ですか?
特化則改正で義務付けられた金属アーク溶接等作業主任者の選任義務は「屋内作業場」が対象です。屋外での溶接作業(建設現場の露天での鉄骨溶接等)は選任義務の対象外です。ただし、屋内であっても屋根・壁・床の一部のみある半屋外的な作業場(テント型の作業場等)については、実態を考慮して判断されます。詳細は所轄の労働基準監督署に確認してください。
Q. TIG溶接(タングステン不活性ガス溶接)でも選任が必要ですか?
TIG溶接もアーク溶接の一種であるため、屋内での作業は金属アーク溶接等作業主任者の選任対象です。ただし、TIG溶接は被覆アーク溶接やMAG溶接と比べてヒューム発生量が少ないことが特徴です。保護具の選定や換気量はヒューム発生量に応じて設定しますが、選任義務自体は溶接方法によらず屋内でのアーク溶接全般に適用されます。
こんな方におすすめ
- 屋内溶接工場・鉄骨製造業・機械製造業の溶接ライン管理者・現場監督
- 造船業・重工業の屋内溶接作業の安全衛生担当者
- 自動車修理・板金業の屋内溶接作業管理者(法令義務対応)
- 特定化学物質作業主任者をすでに持っており、短縮コース(1日)で取得したい方
最新の講習日程・受講料・実施機関は中央労働災害防止協会(JISHA)または各都道府県労働基準協会の公式情報で確認してください。
公式サイト:中央労働災害防止協会(JISHA)
